const NOTES = [ '*1:潮の満ち引きに伴う流れ(潮汐流、潮流)のうち、鳴門海峡などに発生する非常に強いものを急潮と呼ぶこともあるが、これとは別の現象である。', '*2:豊後水道対岸の大分県佐伯湾の方から流れてくるように感じられることから、「佐伯潮」という呼び方もあったようである。', '*3:英語では適当な言葉がないため、「kyucho」と表記している。', '*4:「何cm/秒以上の流れを急潮と呼ぶ」というような定義はない。', '*5:豊後水道に流入してくる黒潮水は元のままの性質を保ち続けるわけではなく、沿岸水との混合などにより変質していくので、黒潮系水と呼んでいる。', '*6:図4は、後述する底入り潮と一緒に描いているが、急潮と底入り潮は必ずしも同時に起こるわけではない。

図4:夏季の豊後水道に発生する急潮と底入り潮の模式図(鉛直断面)

', '*7:コリオリ力あるいは転向力と呼ばれる力。北半球で、低気圧や台風の中心に反時計回りに風が吹き込んでくるのもこの力のためである。', '*8:海面に電波を発射して、海面の波による後方散乱で戻ってくる電波の周波数を分析することにより海面の流速を測定する技術。豊後水道で用いたレーダーでは,波長12mの電波を用いており、この電波は波長6mの海の波で後方散乱を受けて戻ってくるが、海の波が動いているためドップラー効果により周波数が変化する。この周波数の変化量から海の波の動く速さがわかる。さらに海の波の速さは波長毎にわかっているので、波長6mの波の速さを差し引くことにより,その波を運んでいる海面付近の流れの速さが求められる。', '*9:図8で、佐田岬先端の測点K11に急潮による水温変動がほとんど伝わらないのは、速吸瀬戸の強い潮流によりこの付近の海水がいつもよく混ざっているからである。

図8:測点K1~K11における1991~1994年の水温。縦軸の値はK1の水温で、他の測点は5℃ずつずらしている。

', '*10:海面からの赤外線を分析することで海面水温がわかる。', '*11:底入り潮はかなり深いところで起こる現象のため古くから認識されていたわけではなく、この現象の名称も存在していなかったが、2000-2001年に行われた大規模な宇和海の環境調査を機に底入り潮の名称が用いられるようになった[7]。「急潮」は、多くの沿岸で起こる突然の速い潮の流れを表現する普通名詞として位置づけられるが、「底入り潮」は現段階ではほぼ豊後水道の現象のみに用いられている固有名詞の性格が強い。

参考文献

[7] 武岡英隆(2001):栄養塩供給機構調査.宇和海漁場環境調査検討報告書,宇和海漁場環境調査検討会,53-88.', '*12:この観測が現在のYou See U-Seaのルーツであり、現在この測点は油袋沖に移動している。', '*13:他の海域では急潮の強い流れによる定置網の被害がしばしば報告されているが、宇和海では写真1に示した1988年9月の急潮による被害の他には大きな被害は起こっていない。', '*14:養殖魚の死亡数と水温変動の関係から、水温上昇によるストレスが魚病の蔓延を促進した可能性を指摘する研究[14]がある。

参考文献

[14] 武岡英隆(1990):養殖漁場としての宇和海の物理環境.水産海洋研究,54,9-18.', '*15:プランクトンとは、遊泳力が弱くてほぼ水とともに動く水中生物の総称であり、大規模な海水の運動である急潮や底入り潮は、これらの分布に大きな影響を及ぼす。本文に述べる赤潮の抑制はその一例であるが、そのほか、急潮や底入り潮による外洋性プランクトンの輸送の研究[15]や動物プランクトン輸送の研究[16]なども行われている。また、近年宇和海で大量発生が頻発しているクラゲ類も動物プランクトンの一種であるが、これらが急潮により宇和海沿岸の湾内に運び込まれているという研究も行われている[17][18]。

参考文献

[15] Katano, T.., A.. Kaneda, H.. Takeoka and S.. Nakano (2005): Seasonal changes in abundance and composition of picophytoplankton in relation to occurrence of Kyucho and bottom intrusion in Uchiumi Bay, Japan.. Marine Ecology Progress Series, 298, 59-67.
[16] Kaneda A.., H.. Takeoka and Y.. Koizumi (2002): Periodic occurrence of diurnal signal of ADCP backscatter strength in Uchiumi Bay.. Estuarine, Coastal and Shelf Science, 55, 323-330.
[17] 武岡英隆・藤井直紀・高橋大介・馬込伸哉・南條悠太 (2009):宇和海におけるミズクラゲの集群メカニズム.沿岸海洋研究,46,109-117.
[18] 高橋大介・南條悠太・大山淳一・藤井直紀・福森香代子・武岡英隆 (2010):急潮によって引き起こされた夏季法花津湾表層におけるミズクラゲ集群出現頻度の短周期変動.海の研究,19,1-19.', '*16:急潮や底入り潮は、水温ばかりでなく本文で述べるよう基礎生産などにも大きな影響を及ぼし、天然の魚類の生理や餌環境にも影響する。さらに、遊泳力の弱い稚魚期の魚は急潮などによって容易に長距離を運ばれる。このため、急潮や底入り潮は漁場の形成や移動に影響すると考えられ、マアジ漁場と急潮の関係などの研究も行われている[19][20]。

参考文献

[19] 金煕容・稲井大典・兼田淳史・武岡英隆 (2007): 豊後水道における海洋環境とマアジの漁獲変動特性..水産海洋研究,71,1-8.
[20] 橋田大輔・武智昭彦・冨山毅(2017):宇和海におけるマアジ稚魚の来遊と暖水流入の関連.水産海洋研究,81,97-109.', '*17:植物の生育に必要な無機態物質のうち自然環境中で不足しやすいものを栄養塩と呼ぶ。海では、窒素(N)、リン(P)、珪素(Si)がこれにあたる。陸ではカリウム(K)も栄養塩と呼ばれるが、海ではカリウムは豊富なので栄養塩とは呼ばれない。', '*18:日振島付近が鉛直に混ぜられることは、You See U-Seaの水温情報からも読み取ることができる。一例として、2020年7月下旬から8月下旬にかけての福浦と日振島の水温を図17に示す。図のように、海面下1mと60mの水温差が、福浦では約7℃から大きい時では10℃以上もあるのに対し、日振島では1℃未満から大きい時でも7℃程度であるが、これは日振島付近の海水が鉛直に混ぜられたことを示している。さらに日振島の水温グラフには潮流の強さの変化の影響も明確に現れている。よく知られているように潮流の強さは月齢によって変化し、満月、新月の頃に強く(大潮)、上弦、下弦の月の頃に弱く(小潮)なる(実際の最強、最弱はこれらの日より数日後になる)。強くなった潮流が成層した海水を鉛直に混ぜるのに数日を要し、潮流が弱まって成層が回復するのにも数日を要するので、満月~下限、新月~上弦の中間頃に上下の水温差が最も小さく、上弦~満月、下限~新月の中間頃に上下の水温差が最も大きくなるのである。

図17:2020年7月下旬から8月下旬の福浦と日振島の水温(You See U-Seaより)

', '*19:植物プランクトンの持つクロロフィル(葉緑素)のうちで代表的なものがクロロフィルaであり、その場の植物プランクトン量の指標としてよく用いられる。', '*20:日振島付近以外にも、宇和海に多く存在する岬や島などの下流では渦による鉛直混合が起こり、かなりの程度海水を鉛直に混合していると考えられる。また、瀬戸内海に潮汐を起こすために大量の海水が出入りする豊後水道は比較的潮流の速い海域であり、島や岬付近以外でもある程度の鉛直混合は起こっている。', ];